慰謝料に税金はかかる? 離婚の慰謝料で税金が発生するケースとは

離婚する際には財産分与や養育費だけではなく、慰謝料を受け取る場合があります。
金銭を受け取るのであれば、贈与税や所得税などの税金がかかるのではないかと疑問に思っている方も多いでしょう。
基本的に慰謝料に税金は発生しませんが、場合によっては税金が発生することもあります。
 
そこで今回は、離婚の慰謝料で税金が発生するケースについて解説します。
慰謝料で税金が発生した場合の計算方法や、税金が発生しないようにするための方法も併せてご紹介するので参考にしてみてください。
 

離婚における慰謝料とは

 
慰謝料とは、不法行為によって生じた精神的苦痛に対する損害賠償金のことを指します。
不法行為による損害に対して加害者は被害者に対して賠償責任が生じることが民法第709条に定められており、その損害賠償に慰謝料が含まれています。
 
そして、離婚において慰謝料が発生する事由は、「不貞行為」や「悪意の遺棄」「DV」「モラハラ」などが挙げられます。
全ての離婚事由に慰謝料が発生するわけではなく、あくまでも不法行為があった場合のみです。
そのため、性格の不一致で離婚するような場合には慰謝料が発生しません。
 

慰謝料を受け取ると税金はかかるのか?

 
離婚に伴って慰謝料を受け取ることになった場合、税金が発生するのかどうか気になる方は多いと思います。
慰謝料の金額が高額になるほど税金も高くなるのではないかと心配になるでしょう。
慰謝料の受け取りに税金は発生するのでしょうか?
 

1.税金の種類について

 
金銭を受け取った場合、発生する可能性のある税金は「所得税」と「贈与税」贈与税です。
まず所得税は、個人の所得に対して発生する税金です。
 
しかし、慰謝料は精神的苦痛に対する損害を賠償するものなので、新たに得た所得であるとは言えません。
また、贈与税は個人から財産を貰った場合にかかる税金ですが、慰謝料は贈与税にも該当しません。
なぜならば、不法行為をしたことに対して加害者の負うべき義務であり、その義務を履行しているだけなので贈与にはならないからです。
 

2.原則的に慰謝料は非課税所得になる

 
慰謝料は所得税も贈与税も発生しないことから、原則的に非課税所得になります。
慰謝料は不法行為に対する損害賠償として支払われるものなので、利益や贈与として受け取るものではありません。
 
そのため、離婚の際の慰謝料が社会的に見て相当な範囲であると考えられる金額を金銭で受け取った場合には非課税所得になることが所得税法第9条に定められています。
 

離婚の慰謝料の受け取りに税金がかかってしまうケースとは

 
離婚の慰謝料は原則的に非課税所得になりますが、例外的に税金がかかってしまうようなケースもあります。
どのような場合に税金がかかるケースとして、次の6つのケースが挙げられます。
 

1.慰謝料金額が社会通念から過大だと認められた場合

 
慰謝料の受け取る金額が、社会通念から考えて過大だと判断された場合には税金がかかってしまうことがあります。
離婚の慰謝料の事由として多いものは不貞行為ですが、不貞行為の慰謝料の相場金額は100~200万円です。
悪質性の高い不貞行為であり、婚姻期間が長ければ300万円を超えるようなケースもあります。
 
しかし、1000万円など極端に高額な慰謝料を受け取ることは社会通念上相当の金額を超えていると考えられ、税金がかかってくる可能性があると言えるでしょう。
 

2.慰謝料として不動産を受け取った場合

 
慰謝料として金銭ではなく不動産を受け取るようなケースもあるでしょう。
慰謝料として不動産を受け取っても贈与税はかかりませんが、一般的に不動産を取得した場合にかかる税金と同様の税金が発生します。
 
発生する税金は、不動産取得税や登録免許税、固定資産税です。
ただし、離婚時に慰謝料ではなく財産分与として不動産を受け取った場合であれば不動産取得税はかかりません。
 

3.離婚成立前に慰謝料として不動産を受け取った場合

 
居住していた家を離婚の慰謝料として譲渡された場合であれば、税金は発生しません。
しかし、離婚成立前に慰謝料として自宅などの不動産を受け取った場合には、贈与税がかかってきます。
ただし、贈与税は次の3つの条件に該当すれば2000万円の配偶者控除を受けることができます。
 

  • 婚姻期間が20年以上
  • 譲渡された不動産が居住用不動産であること、または居住用不動産を取得するための金銭譲渡で居住用不動産を取得した場合
  • 不動産を譲渡された人が受け取った翌年の3月15日までその不動産に住んでいて、その後も住み続ける見込みがあること

 
これらの条件を満たせば配偶者控除を受けることができ、加えて贈与税は年間110万円まで基礎控除があるため、合計2110万円までは非課税になります。
もし条件に該当しない場合でも、基礎控除により110万円は非課税になります。
 

4.離婚成立前に慰謝料として車を受け取った場合

 
離婚成立前に、慰謝料として車を受け取った場合にも贈与税がかかる可能性があります。
車の時価が110万円を超え、慰謝料相場よりも高額な場合には、110万円を超えている部分が贈与税の対象になるのです。
そのため、車を慰謝料として受け取る場合には、事前に慰謝料相場と受け取る車の査定額を知っておく必要があります。
 

5.偽装離婚の場合

 
戸籍上で離婚したとしても、贈与税や相続税の対策として偽装離婚していると疑われる場合には、贈与税がかかる可能性があります。
離婚の慰謝料として金銭を受け取り戸籍上の離婚をしたものの、実質的な内縁状態が続いているのであれば偽装離婚が疑われます。
 
例えば、遺産を相続したものの相続税が払いきれないため慰謝料として財産を分けて離婚したような場合であれば、偽装離婚になるので贈与税がかかると考えられます。
 

6.慰謝料であることを証明できない場合

 
口約束で慰謝料の取り決めを行い、慰謝料を受け取ったという場合には贈与税がかかる場合があります。
税務局による税務調査が行われた際に、金銭授与が慰謝料であることを証明しなければなりません。
慰謝料に関する合意書などがあれば証明することができますが、口約束では証明できるものがないため、贈与と判断されてしまう可能性があります。
税務局に贈与だと判断されれば贈与税が課税されます。
 

離婚の慰謝料の支払いで税金がかかってしまうケースとは

 
離婚の慰謝料の受け取りだけではなく、支払う側も税金がかかってしまうようなケースもあります。
慰謝料に加えて税金まで発生すれば支払い額が大きくなってしまうため、事前に税金が発生するケースについて知っておきましょう。
 

1.譲渡した不動産の時価が高かった場合

 
金銭の代わりに不動産を慰謝料として譲渡する場合、不動産を取得した時よりも慰謝料として不動産を譲渡した際の価値が高くなっていれば「譲渡所得税」がかかります。
価値が高まっていることで値上がり益を得たことになるため、譲渡所得税が発生する可能性があります。
 

2.第三者に慰謝料を立て替えてもらった場合

 
慰謝料の支払いが困難で、親族など第三者に慰謝料を立て替えてもらった場合には贈与税がかかる可能性があります。
立替えなどで借りている状態であったとしても、第三者から金銭を授与された扱いになるので贈与税がかかってしまうことがあるのです。
そのため、親族間であったとしても立て替えてもらった場合には書面に残し、早い段階で返済することが大切です。
 

離婚の慰謝料で税金がかかった場合の計算方法

 
離婚の慰謝料で税金がかかった場合、どのくらいの税金の支払い額になるのか事前に知っておきたいという方も多いでしょう。
そこで、離婚の慰謝料で発生すると考えられる贈与税や不動産取得にかかる税金の計算方法をご紹介します。
 

1.贈与税の計算方法

 
贈与税がかかる場合、受け取った金額から基礎控除の110万円を差し引いた金額に課税されます。
そして、金銭を受け取った人が納税を行います。
贈与税の場合、「基礎控除後金額×税率−控除額」の算式で支払う税金を計算します。
ただし、基礎控除後金額ごとに税率や控除額は異なります。
 

基礎控除後金額 税率 控除額
200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1000万円以下 40% 125万円
1500万円以下 45% 175万円
3000万円以下 50% 250万円
3000万円以上 55% 400万円

 
例えば、700万円の慰謝料を受け取った場合であれば、700万円−基礎控除額110万円=590万円になるので、590万円が贈与税の課税対象になります。
そして、590万円の場合には税率が20%で控除額が25万円になるため、590万円×20%(税率)−25万円=93万円 したがって、93万円を贈与税として支払うことになります。
 

2.不動産を受け取った場合の計算方法

 
不動産を慰謝料として受け取った場合、不動産取得税や登録免許税がかかることになります。
不動産取得税と登録免許税のそれぞれの計算方法は次の通りです。
 

①不動産取得税

 
不動産取得税は、不動産を取得した際に都道府県が課税する地方税です。
不動産の取得者が納税を行います。
 
不動産取得税の計算式は、「課税標準額×税率」になります。
課税標準額とは固定資産税評価額のことを指し、2021年3月31日までに宅地を取得した場合には評価額の2分の1が課税標準額になります。
また、税率は原則として4%ですが、2021年3月31日までは土地や家屋(住宅)が3%、家屋(非住宅)が4%に引き下げられています。
 

②登録免許税

 
登録免許税は、不動産の所有権の移転登記をする際に発生する税金です。
売買による不動産譲渡であれば買主が納税を行いますが、慰謝料として不動産を受け取る場合には協議でどちらかが支払いを行うことになります。
 
登録免許税の計算式は、「課税標準額×税率」です。
課税標準額は固定資産評価額のことを指し、所有権移転登記の税率は原則2%です。
 

慰謝料で税金が発生しないようにするための方法

 
慰謝料問題が解決しても、後から納税の際に大きな支払いが発生することが判明すれば困惑してしまいます。
慰謝料であれば税金は発生しないと考えられがちですが、ご紹介したように例外的に税金が発生するようなケースもあるものです。
慰謝料で税金がかからないようにするためにも、次の点に注意しましょう。
 

1.慰謝料は適正金額を請求する

 
慰謝料で税金がかからないようにするためには、まず適正な慰謝料金額を請求することが大切です。
社会通念上相当の金額以上の金額を受け取れば、贈与税がかかってしまう恐れがあります。
もし高額な慰謝料を受け取れたとしても、贈与税まで高額になれば意味がありません。
 
本来であれば金銭による慰謝料であれば贈与税がかからないため、適正と考えられる慰謝料金額を請求するようにしましょう。
少しでも高額な慰謝料を請求したいと考える場合には、適正金額から大幅には離れすぎない金額で請求することをおすすめします。
 

2.慰謝料はできるだけ金銭でやり取りをする

 
離婚前に慰謝料として不動産や車を譲渡すれば、慰謝料を受け取る側も支払う側も両者に税金がかかる可能性があります。
離婚後であったとしても不動産を受け取れば固定資産税や登録免許税などの税金がかかることは避けられません。
そのため、慰謝料の支払いはできるだけ金銭でやり取りすることをおすすめします。
 

3.慰謝料は必ず書面化する

 
慰謝料に関する取り決めは、公正証書などの書面に必ず残すようにしましょう。
書面として残していれば、税務調査が行われた場合でも慰謝料として受け取ったという証拠として提出することができます。
また、慰謝料の支払いに関するトラブルも防ぐことができるため、書面化することは非常に重要であると言えます。
 

4.弁護士に相談する

 
離婚の慰謝料に関するトラブルは、弁護士に相談するようにしましょう。
弁護士に相談すれば慰謝料の適正価格を知ることができ、支払いに関する取り決めも税金が発生しない方法で合意を進めるサポートを行ってもらえます。
相手との交渉や財産分与なども任せることができるので、離婚前から相談しておけば有利な条件で離婚を進められる可能性が高まります。
 

まとめ

 
今回は離婚の慰謝料にかかる税金について解説しました。
原則的に慰謝料には税金がかかりませんが、不動産などを慰謝料代わりにする場合や、あまりにも高額な慰謝料請求を行う場合には税金が発生する可能性があります。
税金の支払いで後から困ったことになってしまわないようにするためにも、弁護士に相談して適正金額で慰謝料請求することを検討してみてください。

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