慰謝料の請求相手が自己破産した場合も慰謝料は払ってもらえるのか?

慰謝料の請求相手が自己破産した場合も慰謝料は払ってもらえるのか?

慰謝料を請求した相手が自己破産してしまったというようなケースもあるでしょう。
自己破産すれば慰謝料を回収することができないと諦めてしまう方もいるかもしれません。
慰謝料も債権として扱われますが、必ずしも慰謝料を回収できないとは限りません。

 

今回は慰謝料の請求相手が自己破産した場合の慰謝料の回収について解説します。
慰謝料を回収する方法や、支払ってもらえない場合の対処法についてもご紹介します。

 

慰謝料と自己破産の関係性について

 

慰謝料は、不法行為に対する損害賠償金の一種です。
精神的苦痛に対する損害賠償のことを指し、不貞行為や交通事故の被害に遭った場合などに慰謝料を請求することができます。

 

慰謝料の金額はケースバイケースですが、数百万円と高額になることも珍しくありません。
しかし、相手が慰謝料を支払えずに自己破産してしまうようなケースもあります。
まずは、慰謝料と自己破産の関係性からみていきましょう。

 

1.自己破産とは

 

そもそも自己破産とは、借金の返済義務を法的に免除してもらうという手続きです。
破産手続は多額の借金を抱え、支払うことができなくなった場合に行われます。
つまり、慰謝料請求で相手が自己破産をするということは、慰謝料以外にも借金を抱えている可能性があります。

 

破産手続きを行えば、破産者は返済義務が免除される代わりに自宅や車など財産が差し押さえられます。
そして、財産は全て換価されて公平に債権者へ分配されることになります。

 

2.慰謝料は債権として扱われる

 

借金のことを法律用語では「債権」と呼びます。
銀行や消費者金融などから借りた金銭や、友人や親などから借りた金銭も、全てが債権として扱われます。
そして、慰謝料も債権に該当します。

 

自己破産は債務が免責される手続きなので、慰謝料も債権として免責されるようなケースがあります。
しかし、破産法では破産しても免責されないような債務が定められており、慰謝料が免責除外の対象に認められれば慰謝料を回収することができます。
詳しくは、次の項で解説していきます。

 

慰謝料の請求相手が自己破産したら慰謝料はどうなるのか?

 

慰謝料の請求相手が自己破産手続きをすれば、借金などの債務は免除されてしまう可能性があります。
それでは、慰謝料はどのような扱いになるのでしょうか?
慰謝料を支払ってもらえないケースと、慰謝料を支払ってもらえるケースをそれぞれ紹介していきます。

 

1.自己破産で免責されれば慰謝料は支払ってもらえない

 

自己破産をすれば税金など一部を除けば債務は全て免責されることになり、免責とは債務の支払い義務が免除されることです。
つまり、破産者の抱える債務はゼロになります。

 

自己破産をするには裁判所へ破産手続きを行うことになり、免責の許可が出れば自己破産ができるという仕組みになっています。
慰謝料の請求をしていた場合、慰謝料も債権として扱われて免責が検討されることになるのです。
そして、自己破産の免責許可が出た場合には、慰謝料も免責されて支払ってもらえなくなります。

 

2.自己破産が免責不許可になれば慰謝料は免責されない

 

前述したように、自己破産をするには手続きを行う必要があります。
その手続きの途中で破産者に「免責不許可事由」があることが判明すれば、免責不許可になり、自己破産は認められません。
免責不許可事由とは免責を受けられなくなる法的な理由のことを指し、一般的には浪費やギャンブルなどが該当します。(破産法第252条)

 

もし慰謝料請求をした相手が破産手続きを行ったとしても、免責不許可になれば債権の支払い義務はそのまま残るため、慰謝料の支払い義務も継続して負うことになります。
ただし、免責不許可事由があったとしても、裁判官による「裁量免責」で免責されてしまうケースも多いです。

 

3.慰謝料が「非免責債権」になれば支払ってもらえる

 

自己破産をすれば全ての債権が免責対象になりますが、例外もあります。
自己破産をしても支払い義務が残る債権を「非免責債権」と呼び、破産法第253条にも定められています。
例えば、租税等の請求権(所得税や贈与税、相続税など)や養育費は非免責債権として扱われます。

 

請求した慰謝料が非免責債権として認められれば、慰謝料は免責されずに支払ってもらえることになります。
ただし、非免責債権として認められるには一定の条件を満たしていなければなりません。

 

慰謝料が非免責債権になるための条件とは

 

慰謝料が非免責債権として認められれば、請求相手の自己破産に許可が出たとしても慰謝料の支払い義務が残ります。
そのため、相手は慰謝料を支払わなければなりません。
ただし、慰謝料が非免責債権として認められるには次のうちの条件のどれかに該当する必要があります。

 

1.悪意で加えた不法行為に該当する

 

破産法第253条1項には、「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」は非免債権になることが規定されています。

 

不法行為は他人の権利や利益を侵害する行為ですが、悪意を持ってこの行為を行ったかどうかが争点となります。
悪意とは、「故意を超えた積極的な害意」のことを指すと平成28年3月11日の東京地裁判決では判断しています。
例えば、次のようなケースでは悪意で加えた不法行為に該当すると考えられます。

 

  • 配偶者を憎んで苦しめようと考え、日常的にモラハラ行為を行った
  • 身体の不自由な妻を放置し、生活費を渡さなかった
  • 夫婦関係を破綻させようと意図的に第三者が一方の配偶者と性交渉を行った

 

このように相手を積極的に傷つけようと考えて行った不法行為であれば、非免責債権に認められる可能性が高いです。
しかし、不貞行為の場合は故意に配偶者を傷つけようとして行っているものと判断されないケースが多いため、非免責債権に認められないことが多いです。

 

2.故意又は重大な過失によって生命または身体を害する不法行為に該当する

 

破産法第253条1項には、「破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」は非免責債権になることが規定されています。
つまり、不法行為によって人の命または身体が害された場合であり、悪意はなくても故意や重大な過失があれば非免責債権が認められることになります。

 

  • 婚姻期間中に夫から継続的にDVを受けていた
  • 前方の車とぶつかることが分かっていながらアクセルを踏み、相手にケガをさせた

 

こうした場合には故意や重大な過失があったと判断され、不法行為の慰謝料の支払い義務が自己破産後も残ると考えられます。

 

3.債権者一覧への記載漏れがあった場合

 

破産手続では、債権者一覧表を作成して裁判所へ提出します。
債権者一覧表とは、自身の債務の債権者と債権を全て記載した表です。
この債権者一覧表を基に裁判所は債権者へ破産手続きの通知を送付して手続きを進めるため、債権者一覧に慰謝料を記載していなかった場合には、慰謝料は免責対象になりません。

 

たとえ後から記載漏れをしていたことが判明しても、債権者は免責に対する意見申述の機会などを奪われて不利益を被るため、非免責債権として扱われます。

 

非免責債権に該当する慰謝料が支払ってもらえない場合の対処法

 

慰謝料が非免責債権に該当するのであれば、請求者が自己破産したとしても慰謝料の支払い義務はなくなりません。
非免責債権に該当する慰謝料を支払ってもらえないような場合の慰謝料請求方法をご紹介します。

 

1.債務名義がある場合

 

債務名義とは、強制執行によって相手の財産を差し押さえることができる書類です。
慰謝料における債務名義は、次の通りです。

 

  • 強制執行認諾条項付きの公正証書
  • 調停証書
  • 確定判決書
  • 和解調書

 

これらの書類のうちのどれかが手元にあれば、裁判所に申し立てることで相手の財産を差し押さえることができます。
ただし、相手が自己破産をしている場合には「請求異議」を唱える可能性が高いです。
請求異議とは強制執行に異議があること主張する手続きで、裁判で争うことになります。
この裁判で慰謝料が非免責債権に該当するかどうか決まります。

 

2.債務名義がない場合

 

慰謝料の請求を行い、双方が合意に至ったものの公正証書で合意書や示談書を作成していないようなケースもあるでしょう。
こうした場合の合意書や示談書は債務名義にはなりません。
そのため、一度裁判で慰謝料請求を行うことになります。

 

その際に、合意書や示談書を証拠として提出することで相手も慰謝料の支払い合意したことが証明できます。
ただし、相手は裁判中に慰謝料請求は非免性債権に該当しないという主張をすることが考えられるため、裁判所に非免責債権になるのかどうか決めてもらうことになります。

 

慰謝料の請求相手が自己破産した場合のポイント

 

慰謝料の請求相手が自己破産をして慰謝料も免責されれば、慰謝料を支払ってもらうことはできません。
しかし、相手が自己破産しても慰謝料以外のものを支払ってもらえる可能性や、他の方法で請求することもできます。

 

1.養育費や婚姻費用の支払いは免責されない

 

慰謝料の請求相手が自己破産をして離婚慰謝料が免責債権に認められれば、慰謝料は支払ってもらえません。
しかし、離婚による養育費や婚姻費用は非免責債権になるため、請求して支払ってもらうことが可能です。
破産法第253条でも「民法第752条の規定による夫婦間の協力及び扶養の義務」や「民法第760条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務」は非免責債権になることが挙げられています。

 

こうした費用は自己破産の影響を受けないため、相手が支払わらない場合には裁判所に申立てを行うことで不払いがあっても強制執行で取り立てることができます。

 

2.協議ならば慰謝料を支払ってもらえる可能性はある

 

自己破産をして慰謝料の支払いも免責された場合でも、その後に破産者と話し合えば支払ってもらえる可能性があります。
破産者が自己破産後に任意で支払うことは自由だからです。

 

例えば、相手が不貞行為で離婚に至ったことを反省しているのであれば、協議で慰謝料の支払いを受けられるようなケースもあるでしょう。
当事者同士で協議することもできますが、弁護士を代理人として協議することも可能です。

 

3.不倫ならば共同不法行為者に請求することができる

 

不倫で離婚して慰謝料請求したものの、元配偶者が自己破産してしまうというようなケースもあります。
この場合、元配偶者から慰謝料を支払ってもらえなくても、不倫相手に請求することができます。

 

不貞行為は共同不法行為と呼ばれ、不貞行為をした配偶者と不倫相手が共同で賠償責任を負う義務が生じます。
そのため、元配偶者が破産して慰謝料の支払い義務が免除されたとしても、不倫相手が自己破産していなければ不倫相手の慰謝料の支払い義務は残ったままです。
不倫相手の身元が特定できていれば慰謝料請求を行い、支払ってもらうことができます。

 

慰謝料を確実に回収するためにできること

 

慰謝料を確実に回収するためには、慰謝料の示談の際にすべきことがあります。
これから慰謝料の協議や示談を行うという場合には、相手が自己破産しても慰謝料を回収できるように次のことを行いましょう。

1.示談書は公正証書で作成する

 

協議で慰謝料の支払いが合意に至った場合には、合意書や示談書を作成することになります。
この書面作成は、公正証書で作成するようにしましょう。
公正証書で作成すれば示談内容を公文書として内容を証明することができ、支払いが滞った際には強制執行を受けても構わないという旨を記載することで債務名義にすることができます。
調停や裁判をせずに債務名義にすることができるため、相手が慰謝料を支払わない可能性がある場合には強制執行認諾条項付きの公正証書を作成することをおすすめします。

 

2.保証人をつける

 

慰謝料の合意を公正証書で作成する際に、連帯保証人をつけることもできます。
連帯保証人がつけば、慰謝料の支払いの安全性が確保されます。
もし相手が自己破産をしたとしても、連帯保証人の支払い義務まで免責されるわけではありません。
そのため、破産者に慰謝料を支払ってもらえなくても、連帯保証人に慰謝料を代わりに支払ってもらうことができます。

 

3.減額や分割払いに柔軟に対応する

 

慰謝料が高額になってしまい、相手の収入や生活状況から支払いが困難になりそうなことが予想される場合には、減額や分割払いに対して柔軟な対応をすることも確実に慰謝料を回収するための手段であると言えます。
請求する側としては減額に応じたくない気持ちや、分割払いのリスクを背負いたくないという気持ちもあるでしょう。
しかし、減額や分割払いに応じることで、相手が慰謝料を支払いやすくなれば将来的な慰謝料不払いに関するトラブルを避けられる可能性が高まります。

 

まとめ

 

今回は慰謝料の請求相手が自己破産した場合について解説しました。

 

自己破産により慰謝料も免責債権になってしまえば慰謝料を支払ってもらえなくなりますが、慰謝料以外のものを請求するなど他の対応策があるかもしれません。
また、慰謝料は非免責債権であることを主張すれば、自己破産をしても慰謝料を回収できる可能性があります。
慰謝料の回収はご自身で対処することが難しいことも多いので、まずは弁護士に相談してみてください。

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