未払いの不倫慰謝料はどうやって対処する?強制執行による給与差し押さえを行う方法を解説
不倫不倫慰謝料を請求して相手と合意に至ったにも関わらず、慰謝料を支払ってもらえないというようなケースもあるでしょう。
未払いの慰謝料を回収するにはどのように対処すればいいのでしょうか?
相手が請求に対応してくれないのであれば、強制執行による給与や財産の差し押さえなどを行う方法もあります。
今回は、未払いの不倫慰謝料を給与差し押さえなどで回収する方法について解説します。
不倫慰謝料を支払ってもらえない場合、どうするべきか?
不倫は不法行為であり、加害者(不倫をした人)は被害者(不倫をされた人)に対して損害を賠償する責任が生じます。
そのため、配偶者や不倫相手に不倫慰謝料の請求を行い、相手も慰謝料の支払いに合意すれば示談が成立します。
しかし、示談が成立したにもかかわらず、支払い期限を過ぎても不倫慰謝料を支払ってもらえないようなケースもあります。
この場合、どのように対処すべきなのでしょうか?
1.再度相手に請求する
不倫慰謝料の支払い期日を過ぎても相手が支払いを行わない場合、まずは相手に連絡してみましょう。
相手が支払期日を忘れてしまっている場合や、ケガや病気など特別な事情で支払いが遅れてしまっている場合があります。
相手に支払い期日が過ぎている旨を伝え、支払いについて確認してみてください。
2.財産の差し押さえを行う
相手に再度請求しようと連絡をしてみたものの連絡が取れなくなってしまっている場合や、支払いを拒否された場合には、最終手段として財産を差し押さえて回収するという方法があります。
強制執行と呼ばれ、本人の意思とは関係なく強制的に取り立てることができる方法です。
慰謝料の支払いに相手も合意している場合であれば、裁判所に申し立てることで財産の差し押さえを行って未払いの慰謝料を回収することができます。
給与差し押さえなどで慰謝料を回収するための条件
相手の給与などを差し押さえて慰謝料を回収するには、いくつかの条件を満たす必要があります。
差押えの手続きを行う前に、まずは条件を満たしているか確認してみてください。
1.慰謝料の支払い義務が存在している
差押えで慰謝料を回収するには、そもそも慰謝料の支払い義務が存在していなければ差し押さえを行うことはできません。
慰謝料の支払い義務がない人は慰謝料を支払う必要はないため、強制執行が認めれないからです。
不倫慰謝料の場合であれば、「肉体関係があったこと」「夫婦関係が破綻していなかったこと」が慰謝料の支払い義務が生じる要件になります。
2.慰謝料の支払い義務を証明できる
浮気をした側には慰謝料の支払い義務が生じますが、差し押さえするには支払い義務の証明が必要になります。
慰謝料を支払うことを口約束しただけでは、証明することができません。
強制執行で給与差し押さえなどを行うには、慰謝料の支払い義務があることを記した公文書で証明を行います。
慰謝料の支払い義務を確認できる公文書は「債務名義」と呼ばれ、次のものが債務名義になります。
- 執行分付き公正証書
- 確定判決
- 調停調書
当事者同士で示談した場合には、ご自身で作成した示談書や合意書が証拠になります。
ただし、公文書の扱いにはならないため、裁判を申してて勝訴しなければ強制執行を行うことはできません。
3.相手の財産を把握している
不倫慰謝料を差押えで回収する場合には、ある程度相手の財産を把握しておく必要があります。
なぜならば、裁判所に差し押さえの申立てを行う際に申告が必要だからです。
相手のどんな財産を差し押さえるのか申告を行い、その財産の差し押さえが行われます。
どの銀行に口座があるのか分からない状況であれば、差し押さえをすることは困難になります。
また、給与を差し押さえようとしても、勤務先が分からなければ給与の差し押さえを行うことができません。
そのため、差し押さえの前に相手の財産を知っておくことは大切です。
相手の財産が分からな場合には、裁判所に「財産開示請求」を行うことで相手の財産を知ることができます。
4.相手の住所や勤務先を把握している
裁判所へ差し押さえの申立てを行うには、相手の住所などの情報が必要です。
そのため、相手の現住所を調べておく必要があります。
現住所を調べる方法は、住民票から転居先の確認する方法や、本籍地の役所から戸籍謄本を取り寄せる方法で調べることができます。
また、給与差し押さえを行う場合のために勤務先についても把握しておきましょう。
強制執行で差し押さえできる財産とは?
不倫慰謝料を強制執行で回収するとしても、相手の財産を全て自由に差し押さえできるわけではありません。
差し押さえできる財産もあれば、差し押さえできない財産もあります。
財産差し押さえの手続きの前に、差し押さえできる財産・差し押さえできな財産について把握しておきましょう。
1.差し押さえできる財産について
強制執行で差し押さえできる財産は、主に次のものが挙げられます。
- 不動産(土地や家など)
- 動産(車や貴金属、骨董品、美術品、家財道具など)
- 債権(給与、預貯金、退職金など)
財産が多い場合には、不動産や動産を差押えて換金することで慰謝料を回収できます。
しかし、一般的なサラリーマンの場合は多くの財産を期待することはできないため、確実に回収できる給与などの債権を差し押さえることが多いでしょう。
2.差し押さえできない財産とは
強制執行で相手の財産を差し押さえることができますが、慰謝料を支払う側にも生活があります。
そのため、全ての財産を自由に差し押さえることはできません。
給与の差し押さえの場合には、「手取り額が月額44万円以下の場合は手取りの4分の1」「手取り額が月額44万円以上の場合は手取り額から33万円を超えた金額」という上限が設けられています。
また、年金受給や生活保護の受給の権利は差し押さえすることは出来ません。
給与の差し押さえで慰謝料を回収するための手順とは
実際に給与などの差し押さえで慰謝料を回収する際には、どのような手順で手続きが進むのか事前に知っておきたいものです。
差押えまでの手順をポイントと一緒にみていきましょう。
1.申立てのための種類を準備する
裁判所へ強制執行の申立てを行うには、申立書だけではなく複数の書類を提出しなければなりません。
そのため、事前に必要な書類の準備を行っておきましょう。
裁判所の申立てに必要な書類は次の通りです。
- 強制執行の権利があることを示す書類(執行認諾文言付き公正証書、調停証書、裁判の判決書など)
- 送達証明書
- 当事者の住民票、戸籍謄本
- 当事者目録
- 請求債権目録
- 差押債権目録
- 資格証明書
これらの書類を集めることに加え、相手の勤務先や現住所、財産についても事前に調べておきましょう。
2.裁判所に申立てを行う
裁判所へ申立てを行うための書類が全部揃ったら、差し押さえの申立てを行います。
申立てを行う裁判所は、相手が居住する地域の管轄の地方裁判所です。
ご自身の管轄の地方裁判所と勘違いされることもあるので、ご注意ください。
裁判所へ申立てを行う際には、申立ての手数料として収入印紙4,000円と郵便切手代金が必要になります。
3.債権差押命令申立ての成立
裁判所へ申立てを行うと内容の確認が行われ、問題がなければ数日後には「債権差押命令」が発令されることになります。
差押えを行う会社または金融機関に対して差押命令の発令および差押命令正本が送付されます。
そして、送達命令から1週間~10日ほどで取立てを実行することができるようになります。
4.取立て
取立てによる慰謝料の回収は裁判所が行うのではなく、自分で行う必要があります。
給与を差し押さえる場合であれば、相手の勤務先の担当者に連絡をします。
また、預貯金の差し押さえの場合には、該当の金融機関に連絡をします。
慰謝料の回収が出来た後は、取立て届を裁判所へ提出します。
取立て届には、取立てを行った日付けや回収金額などを記載します。
不倫慰謝料を確実に回収するために事前にすべきこと
可能であれば、不倫慰謝料は確実かつスムーズに回収したいものです。
不倫慰謝料を確実に回収するには、不倫慰謝料の請求を行った時から事前にしておくべきことがあります。
トラブルが長引くことや、不倫慰謝料の回収で時間がかかってしまうことのないように、次のことを事前に行っておきましょう。
1.公正証書で合意書を作成する
不倫慰謝料の支払いに相手が合意した場合には、合意書や示談書を作成することになります。
当事者間で作成することができますが、個人で作成した書面は「私文書」の扱いになってしまいます。
私文書には法的拘束力がないため、相手が慰謝料を支払ってくれない場合でも私文書の合意書では強制執行を行うことができません。
裁判を行い、判決が出てから強制執行による差押えを行うことになるため時間がかかってしまいます。
こうしたトラブルを避けるためにも、合意書は公正証書で作成するようにしましょう。
強制執行認諾付きの公正証書を作成すれば裁判の判決と同じ効力が認められるため、裁判をしなくても財産の差し押さえを行うことができます。
2.相手の財産を把握しておく
慰謝料を支払わない相手がどれくらいの財産を持っているのか調査することは、慰謝料を支払ってもらう側が行わなければなりません。
夫婦間の場合は調査を行いやすいため、離婚を検討している場合には離婚前に調査を行っておきましょう。
差し押さえを行うことが分かれば相手は財産を隠す可能性もあるため、相手に知られる前に調べておくべきだと言えます。
相手の財産が分からない場合には、財産の開示請求の裁判所に申立てを行う準備も必要になります。
3.相手が支払えるように示談交渉を行う
不倫慰謝料請求における協議では、減額交渉が行われるケースも珍しくありません。
請求者としては減額したくないという気持ちがあるかもしれませんが、確実に慰謝料を回収するのであれば、相手が支払えるように減額することも大切です。
相手の経済状況からみて到底支払えないような金額であれば、慰謝料の回収は難しくなってしまいます。
減額が難しい場合には分割払いに対応するなど、相手が支払えるように協議を行いましょう。
未払いの不倫慰謝料の回収を弁護士に依頼するメリット
未払いの不倫慰謝料を回収するために相手と交渉することや、裁判所へ申立てや取立てを行うことは、ご自身でも行えます。
しかし、専門家である弁護士に依頼することは非常にメリットが大きいと言えます。
未払いの不倫慰謝料の回収を弁護士に依頼することもメリットは、次の通りです。
1.スムーズに問題解決できる
不倫慰謝料を強制執行の申立てを行い、差し押さえで回収することは、簡単なことではありません。
法律の知識も必要ですが、申立ての手続きなどの事務手続きの知識も必要になります。
慣れていなければ申立てまでに時間がかかってしまいますし、書類に不備があれば一から再提出を行わなければなりません。
そうすれば、問題解決までに非常に時間がかかってしまうでしょう。
弁護士は申立てや強制執行の手続きなどにも慣れているため、スムーズに問題解決までを進めることができます。
2.手続きを全て任せられる
弁護士に依頼すれば、全ての手続きを任せられるので精神的負担が大幅に軽減されます。
面倒な手続きを任せられるだけではなく、裁判所へ足を運ぶことや、相手と連絡を取る必要もありません。
未払いの不倫慰謝料の回収だけではなく、不倫慰謝料の請求をする段階から依頼すれば、強制執行になることを防げる可能性も高まるでしょう。
そのため、不倫慰謝料を請求する段階から弁護士に相談することをおすすめします。
3.相手の財産隠しを防げる
強制執行による財産や給与の差し押さえが行われることを知り、相手が財産隠しを行うようなケースもあるでしょう。
しかし、弁護士に依頼していれば相手の財産隠しを防ぐことができます。
弁護士は、弁護士法第23条によって弁護士照会を利用して各機関に連絡をして財産を照会することができます。
また、弁護士が代理人になっていることは心理的プレッシャーになるため、相手は財産を隠すような考えを持たなくなる可能性も高いです。
まとめ
今回は、未払いの不倫慰謝料を給与などの差し押さえで回収する方法について解説しました。
もし慰謝料の支払いをしてもらえない場合でも、泣き寝入りせずに弁護士に相談すれば、協議や強制執行の申立てによって慰謝料を回収することができます。
強制執行の申立てや取立て手続きはご自身で行うことは負担も大きいため、弁護士に依頼することをおすすめします。
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