慰謝料を払えないとき|確認すべきこと・やるべきことを解説
不倫「不倫していたことが相手の配偶者にバレて、慰謝料を請求されているが、お金がなくて払えない」
「高額な慰謝料を請求されて払えそうにない。払わずに済む方法はないのだろうか」
不倫していたことがバレて、慰謝料を請求されたものの、支払うだけのお金がなく、不安に陥っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
不倫に関する問題は他人に相談しづらいこともあり、誰にも相談できずに途方に暮れてしまう方も多くいらっしゃいます。
今回は、そもそも、慰謝料を本当に支払わなくてはならないのか、相手の請求金額は妥当なのかといったことや、支払えない場合の対処法、支払わないとどうなるのか、慰謝料の支払いについてよくある疑問などについて解説します。
まずは本当に支払わねばならないのか確認
請求された慰謝料が支払えないと焦る前に、まずは本当に支払う必要のあるものなのかを確認しておきましょう。支払い義務がないのに請求されている可能性もないわけではありません。
1.肉体関係はあったのか
慰謝料の支払いが発生するためには、請求原因となる不法行為が存在する必要があります。不貞行為、つまり肉体関係があったことをもって請求が認められるのです。
食事に行っただけという場合や、キスをしただけといった場合は、不貞行為があったとはみなされず、慰謝料の請求は認められません。相手が請求してこようと支払う必要はないのです。
2.有効な証拠があるのか
たとえ相手と不貞行為を働いてしまった場合でも、そのことを立証する証拠がなければ、慰謝料の請求は認められません。
特に裁判になって争う場合、裁判所は証拠の有無をもって、請求を認めるかどうかを判断します。十分な証拠がなければ、請求を認めません。
また、裁判に至っていない場合でも、相手が何を根拠に慰謝料の請求をしているのかを確認することは非常に大切です。確たる証拠がないのに相手が請求してきている場合は、争う余地があります。安易に支払いに応じず、相手との交渉の仕方について、一度弁護士に相談の上、対応した方がよいでしょう。
3.時効は成立しているか
時効が成立している場合は、慰謝料を支払う必要はありません。時効については、民法第724条において次のように定められています。
「第724条 不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。」
つまり、相手が不倫の事実を知ってから3年以上経過している場合と、不倫してから20年以上経過している場合は、時効が完成するため、慰謝料の請求は認められないのです。
4.自由意思で持った関係だったか
暴行や脅迫によって、無理やり関係を持たされた場合は、こちらも被害者になります。当然、慰謝料を支払う必要はありません。慰謝料の請求が認められるのは、お互いの自由意思によって関係を持った場合に限られます。
5.故意や過失はあったか
故意や過失がない場合も、慰謝料を支払う必要はありません。不法行為による損害賠償については、同法第709条において次のように定められています。
「第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」
つまり、不倫による損害賠償の請求が認められる場合とは、相手が既婚者であることを知りながら関係を持った場合(故意があった場合)や、相手が既婚者であることを確認する機会があったにもかかわらず、それを怠った場合(過失があった場合)です。独身者が前提の婚活イベントなどで知り合い、その後も相手の巧みな嘘によって、相手が独身であると信じていた場合など、故意も過失もなかったとみなされる場合は、慰謝料を支払う義務はありません。
6.不倫相手の夫婦関係は以前から良好だったか
相手と関係を持つ以前から、相手の夫婦関係が破綻していた場合は、不倫による損害は認められないため、慰謝料を支払う必要はありません。
不倫による慰謝料は、不貞行為が発覚したことで、夫婦関係に与えた損害に対して支払うものです。以前から夫婦仲が悪く、別居していた場合などは、不倫の事実が夫婦関係に損害を与えたとは認められにくく、慰謝料を支払う義務も発生しにくいでしょう。
請求金額は妥当か確認
不倫による慰謝料の相場は、数十万円から300万円程度といったところです。実は、慰謝料金額については、明確に定めた法律はないため、いくら請求しようと法的には問題ありません。
しかし、裁判になった場合や弁護士に依頼した場合は、過去にあった類似事件の裁判例に基づいて算定され、その相場が前述の数十万円から300万円程度といった金額になります。
相場からあまりにもかけ離れた金額を請求されている場合は、減額交渉をする余地があるでしょう。
また、相手方が弁護士を代理人として請求してきている場合は、こちらが減額交渉することを見越して、高めに請求してきている可能性もあります。
いくらくらいが妥当な金額といえるかは、個々の事例によりますので、一度弁護士に相談し、確認してみるとよいでしょう。
支払えない場合の対処法
支払い能力を超えた金額を請求されてしまった場合、どうすればよいものかわからず、途方に暮れてしまうものです。しかし、ないものはありませんし、支払えないものは支払えません。できる限り誠意と謝罪の意を示しながら、相手と交渉してみることが解決への一歩です。
1.まずは減額交渉を試みてみる
まずは正直に資産がなく、支払えない旨を相手に告げ、減額してもらえるよう交渉してみましょう。反省の態度を示し、可能な限りで支払いに応じる姿勢を見せることが大切です。
そうはいっても、怒り心頭に発した相手方は、まったく取り合ってくれないこともあるでしょう。
そのような場合は、弁護士に依頼することをおすすめします。弁護士が代わりに交渉することで、相手が冷静さを取り戻し、交渉に応じてくれることも少なくありません。
自分で交渉することが難しいと感じたら、話がこじれてしまう前に、早めに弁護士に依頼することをおすすめします。
2.一括で支払いが難しければ分割払いを頼んでみる
一括での支払いが難しい場合は、分割払いに応じてもらえるよう頼んでみるのも一つの方法です。
しかし、減額交渉と同様、自分で交渉する場合は、相手が感情的になり、交渉に応じてくれない可能性もあります。交渉が難しい場合は、早めに弁護士に依頼した方がスムーズに解決するでしょう。
また、分割払いに応じてもらえた場合は、滞納しないよう、毎月決められた期日までにきちんと支払いを続けていく必要があります。ほとんどの場合、相手方は分割払いに応じることと引き換えに、滞納した際の条件として、期限の利益を喪失すること、さらに強制執行することを盛り込み、公正証書を作成するでしょう。「期限の利益を喪失する」とは、支払いを滞らせてしまった場合に、残額を一括で支払わなくてはならなくなることをいいます。
さらに、公正証書を作成することで、執行力が付与されることになるため、万が一、支払いが滞った場合には、財産を差し押さえられてしまう可能性もあるのです。
そのような事態にならないためにも、必ず無理のない金額で支払っていけるように交渉しておきましょう。
3.示談書は必ず作成すること
後になってトラブルになるのを避けるためにも、交渉でまとまった内容を示談書として残しておくことは非常に大切です。
慰謝料の金額や支払い方法、支払い期限の他、守秘義務やプライバシーの保護について、さらに、示談書に記載の内容以外に被害者と加害者の間には何も支払いの義務はない旨なども明確に記載しておきましょう。
また、示談書を一度締結してしまうと、その内容を覆すことは非常に難しくなります。自分にとって不利な条件で示談を成立させられそうになっていないか、よく確認の上調印するようにしましょう。できれば、弁護士に内容を確認してもらった上で調印する方が安心です。
支払わないとどうなるのか
とても支払えそうにない金額の慰謝料を請求されると、踏み倒すことはできないのだろうか、と考えてしまう人もいるかもしれません。しかし、特に債務名義がある場合は、請求を無視し続けると財産が差し押さえられる可能性もあります。
1.債務名義があるなら強制執行の可能性も
公正証書や判決調書、和解調書などの債務名義がある場合は、強制執行されてしまう可能性があります。相手からの督促を無視し続けると、財産を差し押さえられて、強制的に回収されることになるでしょう。
一方、示談書には執行力はないため、強制執行はできません。しかし、示談成立後にも支払いをせず、相手からの督促も無視していると、支払いをめぐって裁判を起こされる可能性があります。
2.差押えの対象となる財産とは
差押えの対象となる財産は、限定されており、すべての財産が対象になるわけではありません。差押えの対象となり得る主な財産には次のようなものがあります。
- 不動産
- 動産(貴金属や装飾品、家財など)
- 債権(給与、預金など)
- 生命保険の解約払戻金 など
一番多いのが、給与債権の差押えですが、上限については、以下のように決まっています。
- 手取り月額が44万円以下の場合、手取りの4分の1の額まで
- 手取り月額が44万円超の場合、手取り額から33万円を超えた額
生活できなくなってしまうほど、財産を差し押さえることは、認められていないのです。
また、動産の場合は、換金できても慰謝料金額にまったく満たないこともありますし、預金債権を差し押さえる場合も、差押え口座に預金がなければ、回収の仕様がありません。差押えをされたとしても、資産がなければ回収できないので、相手方はあきらめざるを得ないこともあるのです。
3.差押えの対象とはならない財産とは
差押えの対象とは認められていない財産もあります。年金の受給権利や生活保護の受給権利、児童手当の受給権利などは対象とはなっておらず、慰謝料として回収はできません。
どうしても支払えない場合によくある疑問
どうしても支払える財産がなく、途方に暮れている人もいるかもしれません。そんな状況に陥った場合によくある質問についてお答えします。
1.親に請求されてしまうことはありますか?
自分が慰謝料を支払えないからといって、親に請求されることは原則ありません。不法行為によって被害者に与えた損害の責任は、当事者に問われるものであり、第三者に責任が及ぶことはないのです。
ただし、慰謝料の支払いを分割払いで行うことにし、その担保として親に連帯保証人になってもらった場合は、自分が支払えないと親に請求されてしまう可能性があります。
2.相手に「消費者金融に借りてでも払え」といわれました
本当に慰謝料を支払えるだけの資力がない旨を伝えると「消費者金融に借りてでも払え!」などと高圧的に言われたり、「支払えないなら職場にばらす」と脅されたりすることもあるかもしれません。あまりの剣幕に恐怖を感じ、従おうかと思う人もいるかもしれませんが、その必要はありません。
このような発言は、脅迫罪に当たる可能性があります。不倫という罪を犯したこちらが悪いのはもっともですが、支払いたくても支払えるものがないのですから、それ以上償いようがありません。謝罪はきちんとしなければいけませんが、無茶な要求に従う必要はないのです。
相手が納得してくれず、トラブルになりそうな場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士費用が用意できない場合は、無料相談をしている事務所や各地の法テラスを利用するとよいでしょう。
3.生活保護を受けていますが、そこから慰謝料を支払うべきですか
生活保護費から慰謝料を支払う必要はありません。貯蓄しているなら話は別ですが、慰謝料を支払うことで、生活ができなくなってしまうようなら、資力がない旨を正直に相手に伝えるべきでしょう。
また、たとえ慰謝料を支払えず、相手が強制執行を行ったとしても、生活保護費は差押えの対象とはなりません。
4.お金がなく、自己破産を考えています。慰謝料はどうなりますか
自己破産を申し立てると、破産者に特に大きな問題がなければ、税金や年金などを除き、ほとんどすべての債務が免責となり、支払わなくてもよくなります。不倫による慰謝料も免責の対象となる可能性が高く、支払いを免れられることも少なくないでしょう。
しかし、自己破産に至った理由が、浪費やギャンブルなど免責不許可自由に該当し、免責が許可されない場合は、支払い義務は残ります。
また、不倫が「破産者が悪意で加えた不法行為」であると判断されてしまうと、免責の対象にはなりません。
まとめ
今回は、そもそも、慰謝料を本当に支払わなくてはならないのか、相手の請求金額は妥当なのかといったことや、支払えない場合の対処法、支払わないとどうなるのか、慰謝料の支払いについてよくある疑問などについて解説しました。
相手方から高額な慰謝料を請求されると、どうすべきかわからず、途方に暮れてしまうものです。
しかし、法律に照らしてみると、支払い義務がなかったり、減額の余地があったりする可能性もあります。焦って、相手方の言いなりになるのではなく、冷静に一つ一つ確認した上で、適切に対処することを心掛けましょう。
どうしても不安な場合や自分で解決することが難しいと感じる場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。弁護士費用を用意することが難しい場合は、無料相談をしている事務所や法テラスを利用するとよいでしょう。
一人で悩まず、専門家に相談すれば、きっと解決への道を示してもらえるはずです。
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