不倫の慰謝料請求における求償権とは|損をしないための基礎知識
不倫
相手の配偶者に不倫がバレてしまい、慰謝料のことで困った状況になってしまった!そんなときに、『求償権』というものの存在を知り、どんなものなのか詳しく知りたい、と情報を探している人もいるでしょう。不倫による慰謝料の問題は、なかなか他人に相談できるものでもなく、一人で悩み続けてしまう方も多くいらっしゃいます。
今回は、求償権とは何か、不倫の慰謝料における求償権とはどんなものを指すのか、求償権の放棄とは何か、求償権の行使の際によくあるトラブル、慰謝料を請求された場合に弁護士に相談するメリットなどについて解説します。
求償権とは
求償権とは、他者の債務を代わりに弁済した人が、その他者に対して、弁済した分を返還請求できる権利のことです。たとえば、連帯債務者や保証人が、債務者本人に代わって弁済したときなどに生じます。求償権については、民法第442条1項において、次のように定義されています。
「連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは、その連帯債務者は、その免責を得た額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず 、他の連帯債務者に対し、その免責を得るために支出した財産の額(その財産の額が共同の免責を得た額を超える場合にあっては、その免責を得た額)のうち各自の負担部分に応じた額の求償権を有する。」
つまり、連帯債務者のうちの一人が、その債務を自分の財産で弁済した場合、その弁済額がいくらであろうと、他の債務者に対し、各自の負担に応じた金額の返還請求ができるということです。
不倫の慰謝料の場合の求償権とは
では、不倫の慰謝料の場合に生じる求償権とはどのようなもののことをいうのでしょうか。また、求償権を行使するために必要な条件も、併せて知っておきましょう。
1.不倫は共同不法行為のため求償権が認められる
不倫は、当事者二人による共同不法行為です。そのため、不倫をしたことで、被害者に与えた損害について支払い義務の生じる慰謝料も、当事者二人で連帯して負担することになります。
慰謝料は二人で支払うべきものなので、どちらか一方だけが支払った場合には、その支払った分について、もう一方に求償権を行使し、返還請求することが認められるのです。
2.具体的事例
もう少しわかりやすくするために、求償権の行使について、具体的な事例を挙げてみましょう。
たとえば、こちらが女性で、配偶者のある男性と不倫関係になってしまい、それがバレて相手の妻から300万円の慰謝料を請求されたとしましょう。そして、相手方の請求どおり、こちらが300万円支払ったとします。
しかし、この300万円は、本来ならこちらと不倫相手の二人で負担すべき金額なので、こちらが全額負担する必要はなく、求償権を行使することが可能です。
では、求償権を行使することで、いくら返還してもらえるかというと、それは、場合によります。多くの場合、2分の1ずつということで、150万円となりますが、年齢、収入、社会的立場や、どちらが積極的に誘ったかということによって変わることもあります。
不倫相手の男性側が積極的で、年齢も社会的立場も上であり、こちらの方が年齢も収入も低く、かつ受け身だった場合には、不倫相手が3分の2の200万円、こちらが3分の1の100万円という負担割合になることもあるでしょう。
さらに、相手方から請求されている金額の全額を弁済していなかったとしても、求償権の行使は可能です。300万円請求されていたにもかかわらず、200万円しか支払えていないという場合にも、弁済した分について、求償権の行使はできます。
3.求償権を行使するための条件
求償権を行使するためには、弁済を実行する必要があります。支払いをする前に、行使することは、法律上はできません。請求相手に弁済を行ってから、不倫相手に求償分の返還請求をすることになります。
また、求償権を行使する際は、事前や事後に連帯債務者に、弁済する旨を通知する必要があります。
これは、同第443条で定められている内容で、一つには、二重弁済を避けるという意味合いがあります。弁済することを知らせずに弁済すると、不倫相手も慰謝料を支払った場合に、二重に支払うことになってしまう可能性があるためです。
また、事前に通知せずに支払ってしまった場合については、同法上は次のような文言があります。
「他の連帯債務者は、債権者に対抗することができる事由を有していたときは、その負担部分について、その事由をもってその免責を得た連帯債務者に対抗することができる。」
たとえば、不倫相手が、不倫したことを認めず、その主張が通った場合、慰謝料を支払う義務は生じません。すると、こちらが既に慰謝料を支払っていても、同様に不倫の事実はなかったと主張されて、返還を拒まれてしまう可能性があるということです。
慰謝料を支払う場合は、不倫相手にも事前に通知の上、支払うのが、法律上は無難といえるでしょう。
示談交渉の際に気を付けたい!求償権の放棄とは
相手方との示談交渉の際に、条件として、求償権の放棄がよく持ち出されます。求償権を放棄することは、こちらにとって不利な条件となるため、安易に応じてはいけません。
1.求償権の放棄とは
求償権とは、相手方に弁済した慰謝料のうち、その負担割合分を、不倫相手に返還請求できる権利でした。求償権の放棄とは、文字通り、その求償権を放棄すること、つまり、慰謝料を支払った後に、不倫相手に返還請求しないと約束することをいいます。
求償権の放棄は、特に不倫相手と相手方夫婦が離婚しない場合の示談交渉において、示談成立の条件となることが多く、示談書に記載されることもあるでしょう。示談書は、一度締結してしまうとその内容を覆すことは非常に難しいものです。示談書に特約として求償権の放棄が記載されている場合は、慎重に対応しましょう。
また、相手方に脅されて、こちらに不利な示談内容で無理やり調印させられそうなときは、弁護士に相談することをおすすめします。
2.求償権の放棄に応じる必要はない
前述のとおり、求償権の放棄は、示談交渉の際に、相手方から求められることがあります。しかし、必ずしもそれに応じる必要はありません。というのも、求償権とは、不倫した当事者同士の問題であり、不倫相手の配偶者は、法律上は関係がないともいえるからです。
一方、求償権の放棄は、慰謝料減額のカードとしても使えます。頑なに求償権の放棄を拒否するよりは、よいこともあるのです。
しかし、減額交渉は、当事者同士では感情的になりやすく、なかなかうまくいかないことも多いでしょう。その場合は、弁護士に依頼する方が賢明なこともあります。弁護士に交渉してもらうことで、減額交渉の成功、さらには早期解決といったことも望めるのです。
また、求償権の放棄が記載された示談書に、調印してしまっても、求償権を行使できる可能性もあります。
不倫相手の配偶者と、こちら側の二者間で締結した示談書の場合は、同様の理由で求償権を行使する権利は消滅しないためです。示談はあくまで相手の配偶者とこちらの二者で行われたものであり、第三者である不倫相手に対しては効力がありません。従って、不倫相手に求償権を行使する余地が残るのです。
そうはいっても、実際に二者間で示談書を締結してしまった場合、当事者同士では求償権を行使することは、なかなか難しいものでしょう。不倫相手が負担すべき分を支払ってもらうためにも、法律知識があり、交渉力に長けたプロに任せることをおすすめします。
求償権の行使の際によくあるトラブル
求償権をめぐって、不倫相手とトラブルになることも少なくありません。ここでは、よくあるトラブルについて紹介します。
1.負担割合はどうするか
求償権の負担割合は、既に慰謝料を支払った側にとってみれば大きな問題です。特段の事情がない限り、50:50とするケースが多いものですが、相手の年齢や収入、社会的立場や積極度によっては、必ずしも折半するとも限らず、その割合をめぐって争いになることもあります。
負担割合についての争いを防ぐためには、不倫の当事者同士であらかじめ負担額について話し合い、合意しておくのが望ましいでしょう。
しかし、それでも実際に求償権を行使すると、不倫相手に「そんなことをいった覚えはない」などと言われてトラブルになることも少なくありません。そのようなトラブルを防ぐためにも、合意した内容を書面に残しておくのが望ましいものですが、なかなか難しいのが実情でしょう。
どうしても解決したい場合は、不倫相手を相手方として訴訟を起こすしかありません。しかし、訴訟には弁護士費用がそれなりにかかることもあり、経済的利益はあまり得られない可能性も高く、あまり賢明な方法ともいえないでしょう。
損をしないためにも、慰謝料を請求されたら、できるだけ早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
2.求償権を行使しても相手が支払ってくれない
求償権の行使は、権利として認められているものの、実際に行使するのは、実はなかなか難しいものです。というのも、不倫相手が配偶者の手前、応じにくいことも多いためです。
しかし、不倫が事実である限り、法律上は、求償権の行使を拒否することはできません。たとえ不倫相手が無視を続けたとしても、拒むことはできないのです。
ただ、無視する相手に求償権を行使するための方法は、訴訟しかありません。
しかし、先述のとおり、訴訟費用を考慮すると、得られる経済利益が少なく、あまりおすすめできない方法です。
求償権を慰謝料の減額に応じてもらうためのカードとして使った方がよいことも多いでしょう。
3.時効が成立しているといわれた
不倫の慰謝料についての求償権の消滅時効は、慰謝料の支払いをしたときから10年とするのが一般的です。不倫による慰謝料請求の時効は不倫の事実を知ってから3年ですが、求償権は、慰謝料とは性格が違うとされ、一般債権の時効である10年が適用されます。
慰謝料を請求されたら弁護士に相談を
不倫相手の配偶者から慰謝料を請求されたら、できるだけ早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。特に、離婚や不倫問題に精通した弁護士に依頼することで、早期に最善の形で解決に導いてもらえるでしょう。
1.慰謝料の減額交渉をしてもらえる
弁護士に依頼すれば、相手との交渉を通じで、慰謝料の減額に成功する可能性が高まります。
実は、慰謝料の金額については、明確に定めた基準がなく、相手方が相場よりも大幅に高い金額を請求してくることも少なくありません。弁護士に依頼することで、過去の類似事件の裁判例を基に慰謝料金額を算出した上で、適正な金額まで減額するよう交渉してもらえます。
さらに、求償権の放棄を条件に、慰謝料の大幅な減額に成功することもあるでしょう。
また、当事者同士で話をするよりも、第三者である弁護士が交渉にあたった方が、相手方も感情的になりにくく、話がスムーズに進み、早期解決につながります。
2.請求相手と接触しないで済む
慰謝料を請求してくる相手方と、直接交渉することは、かなり精神的に負担のかかるものです。いくらこちらに非があるといえ、必要以上に罵倒されたり、感情をぶつけられたりすれば、耐えがたいストレスに感じてしまうでしょう。
弁護士に依頼すれば、交渉はすべて弁護士が行ってくれるので、そういった精神的負担から解放されます。相手方からの連絡もすべて弁護士の元へいき、当事者同士で接触する機会がなくなります。精神的な負担がかなり軽減されるはずです。
3.万が一訴訟になっても安心
不倫による慰謝料の支払いは、示談交渉によって解決できるのが、最も望ましいものですが、交渉では解決できず、法廷で争わざるを得ないこともあります。
訴訟に至った場合、もちろん自分で対処することもできますが、裁判手続きは不慣れであると、かなりの時間と労力を要するものです。主張するためにはたくさんの書面を用意せねばなりませんし、裁判期日には出廷する必要もあります。
弁護士に依頼すれば、そういった裁判手続きはすべて弁護士に行ってもらえます。もちろん、主張内容に関する打ち合わせを行ったり、裁判が進んで証人尋問が行われることになったりした場合には、多少時間を割く必要はありますが、基本的に、裁判のためにやらなければならないことはほとんどありません。
弁護士に依頼しておけば、万が一訴訟に発展してしまった際にも安心です。
4.後日トラブルにならないようにしてもらえる
特に当事者同士で示談交渉をすると、後になってトラブルになる可能性もあります。示談書に記載された条件をよく理解しないまま調印してしまったり、条件が不足した状態で締結してしまったりすると、困った事態になることもあるでしょう。
弁護士に依頼すれば、後になってトラブルが起こらないよう、さまざまな可能性を配慮の上、示談書を締結し、解決してもらえます。示談が成立し、解決した時点で、本当に問題から解放されるのです。
まとめ
今回は、求償権とは何か、不倫の慰謝料における求償権とはどんなものを指すのか、求償権の放棄とは何か、求償権の行使の際によくあるトラブル、慰謝料を請求された場合に弁護士に相談するメリットなどについて解説しました。
求償権についての問題は、聞き慣れないこともあり、なかなか難しい問題です。
しかし、よくわからないまま行使しなかったり、相手方に言われるまま放棄してしまったりしては、不利な事態に陥りかねません。本来なら、支払わなくて済む分まで支払うようなことにならないためにも、不倫をして慰謝料を請求されたら、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
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